ドキュメンタリー映画『ただいま それぞれの居場所』 [映画]
この映画観てみたいです、絶対!
一人一人のペース大事に 高齢者施設興した若者描く
2010年4月24日 東京新聞より
介護保険制度が始まって十年。介護をテーマにしたドキュメンタリー映画「ただいま それぞれの居場所」が話題だ。認知症などの高齢者を支えたいと行動する若者らを紹介し、暗くなりがちな介護に明るさを見いだす。大宮浩一監督(51)は「若者の姿に希望の光を感じてもらえたら」と語る。 (佐橋大)
埼玉県坂戸市の「元気な亀さん」は、一九八六年設立の民間の無認可福祉施設だ。「制度の枠にとらわれず、手厚い介護を」。そんな瀧本信吉園長(60)の考えで、介護保険が始まった二〇〇〇年以後も保険を使わない運営を続ける。
大宮監督は一九九六年と九九年、「亀さん」の記録映画撮影にプロデューサーとして参加。今回も当初は、その続編を作ろうと考えたものの、瀧本さんから、ひどい認知症などで介護保険施設にいられなくなる人が目立つようになったという現状を聞き、テーマを大きく変えた。
撮影準備の段階で、大宮監督が訪問したのは、二〇〇〇年以後、主に二十~三十代の若者が設立した二十カ所以上の事業所。こうした取材を踏まえた映画には、「亀さん」のほか千葉県や京都府の宅老所など若者が作った三カ所が登場する。認知症がひどくても分け隔てなく受け入れる施設ばかりだ。
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その一つ、千葉市の宅老所「いしいさん家(ち)」は、老人保健施設に八年間勤めた石井英寿さん(34)が、以前の職場の介護への疑問から〇六年に開いた。「お年寄りは趣味も生活も皆違うのに、サービスが画一的というのは、おかしいんじゃないか」と思ったのがきっかけだ。
「いしいさん家」は、介護保険を使ったデイサービスのほかに、二時間だけの通いや、家族が介護疲れを癒やせるよう別の建物でお年寄りを泊めるサービスを提供するなど、保険外のサービスにも柔軟に対応する。通うお年寄りには、他の施設に利用を断られた人も多いが、一人一人のペースを大事にするこの場所では、落ち着いて過ごしている。
周囲の人を自分の描く世界の人にあてはめ、いらだちをぶつける利用者の女性(87)には、スタッフが女性の世界の登場人物になりきって耳を傾ける。別の施設で、仕事に行くと言っては出ていった男性(80)もここでは、慣れ親しんだ歌を口ずさみ庭の草取りをして過ごす。お年寄りを丸ごと受け止めるスタッフの表情からは、充実感がうかがえる。
利用者は一方的にサービスを受ける存在ではなく、それぞれの役割を果たして生活している。そんな事実に気づき、「ただいま」と帰れる自宅のような雰囲気を大切にサービスを提供する事業所が、各地に生まれている。
「認知症がひどくて対応できない」と、認知症の人のためのグループホームからも利用を断られるなど、介護保険制度の枠組みからはじき出されてしまう人がいる現状にも、大宮監督は前向きだ。
「介護がビジネスになったことで、今までなら、大きな施設で埋没していた若い人が事業を始めやすくなった。大規模な施設を否定するつもりはないが、落ち着ける場所は人それぞれ。選択肢が増えたことを評価したい」
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